WordPress オワコン論はここ数年かなり増えているが、実態としては「完全終了」ではなく、「万能時代の終焉」に近いと思う。
WordPress 自体は 2026 年時点でも世界の Web サイトの約 42% 前後で使われており、依然として CMS として最大規模だ。W3Techs ベースの各種統計でも CMS 市場シェアは約 60% 前後を維持している。Joomla が約 2.5%、Drupal が約 1.5% 程度であることを考えると、その差は依然として圧倒的だ。シェアはピーク時よりやや鈍化しているが、急激な崩壊ではない。
2018 年に WordPress 5.0 でブロックエディタ(Gutenberg)が導入され、2022 年頃からはテーマ全体をブロックで構成するフルサイト編集(FSE)が本格化した。これ自体は「ノーコードでページ全体を自由に編集できる」という方向性で、Wix や Squarespace に対抗する狙いがあったと思われる。
ただ、現場での反応は賛否が大きく分かれた。
旧来の Classic Editor + カスタムフィールドで構築されてきた保守案件が大量に存在していて、これらは Gutenberg 移行のコストが高い。ACF(Advanced Custom Fields)や Custom Post Type UI など、旧来の開発フローに欠かせないプラグインがブロックエディタとの相性問題を抱えるケースもあった。開発者側からすると「React でブロックを書かなければならないのに、WordPress のエコシステムに縛られる」という不満も根強く、Classic Editor プラグインのダウンロード数が今も高水準を維持しているのが象徴的だ。
エンドユーザ側でも、「なんか編集画面が変わって使いにくくなった」という声は珍しくない。特に非エンジニアの担当者が運用しているケースでは、ブロックの概念自体がハードルになることがある。
WordPress のセキュリティ問題はほぼプラグイン起因だと言っていい。WordPress 本体の脆弱性は自動更新の仕組みが整備されており、コアチームの対応も速い。問題はサードパーティプラグインの品質にばらつきがあり、開発が止まった野良プラグインが長期間インストールされたままになるケースだ。
Wordfence の年次レポートによると、WordPressサイトへの攻撃の大半はプラグインやテーマの脆弱性を突いたものだ。特定のプラグインにゼロデイが発見されると、使用しているサイト全体が標的になる。WooCommerce 系のプラグインや、SEO 系プラグイン(Yoast SEO、All in One SEO など)は利用サイト数が多いため、発見された脆弱性のインパクトが大きくなりやすい。
また、PHP や MySQL のバージョン管理、WordPress 本体・プラグインの定期更新を継続的に行うには、それなりの工数が発生する。放置すると脆弱なまま稼働し続けるサイトができあがり、それが「WordPress はセキュリティが弱い」という印象の温床になっている。
「とりあえず WordPress」が当たり前だった時代は確実に終わっている。用途によって最適解が明確に分かれるようになってきた。
EC サイトなら Shopify が圧倒的な選択肢になった。国内でも Shopify のシェアは急伸しており、WooCommerce で WordPress に EC を載せるより、Shopify 単体のほうが決済・在庫・配送の連携コストが低い。
コーポレートサイトや LP では Webflow、STUDIOといったノーコードツールが普及し、デザイナーが直接サイトを構築・更新できる環境が整ってきた。WordPress のようにエンジニアに依頼しなくても修正できることが、運用フローの簡素化につながっている。
ブログや情報発信系では Next.js + microCMS、Astro + Contentful などの Headless 構成が開発者に好まれるようになった。パフォーマンスが出やすく、コンテンツとフロントエンドを分離できるため、デザインの自由度も高い。
2024 年秋に表面化した Matt Mullenweg(WordPress 共同創設者・Automattic CEO)と WP Engine の対立は、WordPress コミュニティに大きな亀裂を生んだ。
経緯を簡単にまとめると、Matt が WP Engine を「WordPress ブランドにただ乗りしている」と公開批判し、WP Engine ユーザの WordPress.org リソースへのアクセスを一時的に制限する措置を取った。これに対して WP Engine 側が提訴し、コミュニティは混乱した。
問題の核心は、WordPress が「OSS」を標榜しながらも、Matt 個人およびAutomattic が事実上の意思決定権を握っている構造だ。GPL ライセンスのコードベースであっても、WordPress.org のプラグインディレクトリや公式テーマリポジトリへのアクセス権は Matt が管理している。この非対称性が「本当に OSS として健全なのか」という疑問につながった。
開発者の一部は Forks や代替ディレクトリを模索する動きを見せており、エコシステムの分裂リスクが意識されるようになった。
WordPress に関する日本語の技術記事、書籍、ハウツー動画の量は、他の CMS と比較にならない。「WordPress ◯◯ やり方」で検索すれば大抵の問題は解決できる。
エンジニア採用の観点でも、WordPress の開発経験者は母数が多く、採用コストが抑えられる。特に中小の制作会社では、WordPress を扱える人員が確保しやすいことが継続採用の理由になっている。
さくらインターネット、エックスサーバー、ConoHa WINGなど、国内レンタルサーバーの多くが WordPress のワンクリックインストールを提供している。年間数千円のサーバー代で、CMS 付きの Web サイトが動かせる。
WooCommerce を使えば EC サイトも追加費用なく構築できる(Shopify のような月額プランが不要)。初期費用を抑えたい個人・小規模事業者にとっては依然として有力な選択肢だ。
WordPress を REST API や GraphQL(WPGraphQL プラグイン)経由で使い、フロントエンドは Next.js や Nuxt.js で構築するという Headless 構成が普及してきた。既存の WordPress 資産(コンテンツ・権限管理・編集画面)を活かしながら、フロントのパフォーマンスや柔軟性を確保できる。
コンテンツ量が多い既存サイトのフロントリニューアルでは、CMS を丸ごと乗り換えるよりコストが低いため、Headless WordPress という選択肢は実務で一定の需要がある。
現在は「WordPress 単体で何でもやる時代」から、「用途に応じて使い分ける時代」に移行している。
実務で WordPress が有力なのは概ね以下のケースだ。
逆に別の選択肢が優位なのは以下のようなケースだ。
WordPress は終わったというより、「標準解だった時代が終わり、選択肢の一つになった」という見方のほうが現実に近い。オワコンと叫ぶ人は特定の用途での不満を全体に拡張しがちで、現役で使われ続けている理由を使われ続けている理由を見落としている。一方で「まだ 42% もある」と安心するのも違って、用途別の棲み分けが進む中でその存在感が少しずつ薄れていく可能性は十分にある。